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宮崎地方裁判所 昭和45年(ワ)394号 判決 1973年5月15日

主文

被告らは、連帯して、原告に対し、金一一七万円および内金一〇九万円に対する昭和四五年七月一一日から、内金八万円に対する本件判決言渡の日の翌日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その二を被告らの連帯負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(当事者の求めた裁判)

原告は、「被告らは、連帯して、原告に対し、金三、〇二四、一〇一円および内金二、八四四、一〇一円に対する昭和四五年七月一一日から、内金一八〇、〇〇〇円に対する判決言渡の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、

被告らは、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求の原因)

一  本件事故の発生

日時 昭和四四年三月二五日午後九時五五分ころ

場所 東諸県郡高岡町大字五町二五四の二、巣山石油店前の道路上

態様 右道路を横断歩行中の原告に被告崇裕運転の普通乗用自動車(以下本件自動車という。)が衝突

二  原告の傷害

本件事故により、原告は、頭部外傷第Ⅱ型、腸管破裂、骨盤骨折、右股関節脱臼骨折等の傷害を受け、昭和四四年三月二五日から同年六月五日まで県立宮崎病院に入院、同日から同月二八日まで宮崎温泉病院に入院、同日から同年一〇月一五日まで同病院に通院して加療を受けたが、現在に至るも骨盤ことに股関節部の骨・関節に変形を認め、左足趾・蹠部・右臀部に知覚鈍痛あり、股関節の可動制限が顕著であり、また、頭痛、思考力減退、めまい、視力減退がある。

三  被告からの責任

(一)  本件自動車は、被告光信の所有であり、同被告はこれを自己の運行の用に供していた。

(二)  被告崇裕は、本件現場付近を、小林方面から高岡方面に向けて、時速約五〇キロメートルで進行中、進路前方を左から右に横断中の原告を前方約三七メートルに認めたのであるから、一時停止すべき注意義務があるのに、これを怠り、そのまま進行したため本件事故を起したものであり、同被告には過失がある。

四  原告の受けた損害

(一)  逸失利益 金一、六五九、三四六円

(1) 定年までの逸失利益

原告は、昭和五年四月二八日生れの健康な男子であり、本件事故当時、高岡町公民館主事として勤務し、昭和四四年五月からは係長に昇任し給与も二等級九号俸(金額は別表(一)のとおり。以下同じ。)となるはずであり、係長に五年間在職した後に課長(一等級一〇号俸)に昇任するはずであつた。しかるに、本件事故による傷害のため、従前の地位にすえおかれ、現在三等級一一号俸の給与を受けており、仮りに五年間この地位にあり、六年後に係長に昇任できたとしても、その時の給与は二等級一三号俸であり、以後、毎年一号俸づつ定期昇給し、二等給一九号俸に至るまで昇給することになるが、定年を五五才とした場合、ボーナス(年二ケ月分と仮定して)をも含めて、定年までの原告のうべかりし利益の喪失額は、中間利息を控除して金一、四六二、八七一円(ただし、最初の一年間分については中間利息を控除しない。)である(別表(二)のとおり。)。

ところで、原告は、自賠責保険から後遺症補償として金四五万円の支払を受けているので、これを差引くと残金は一、〇一二、八七一円となる。

(2) 定年後の逸失利益

原告は、定後後死亡するまで、定年時の給料の六割の恩給を受けることができるところ、定年時における事故前後の収入の差は、一年間に金一七一、七二〇円(別表(二)の(二)の16欄記載のとおり)であるから、原告は七一才まで生存するものとして、その間のうべかりし利益の喪失額は、中間利息を控除して金六四六、四七五円である。

<省略>

(二)  雑費 金一一四、七五五円

原告は、本件事故に基く入院中に左のとおり必要雑費の支払をしたが、その合計額は金一一五、二〇五円であるところ、自賠責保険から入院中の雑費として金四五〇円の支払を受けたので、これを差引くと残金は一一四、七五五円となる。

1 金五八、四〇〇円 三人の子供の預り代

2 金四、七二〇円 タオル・ガーゼ肌着等の購入代金

3 金五、二六〇円 通院のタクシー代

4 金三、八四〇円 諸用を他人に頼んだときのガソリン代

5 金四一、六二五円 付添人の食事代、原告の栄養費等

6 金一、三六〇円 見舞茶果代、退院祝代

(三)  慰藉料 金一〇〇万円

原告には、妻と子供三人がいるが、原告の入院のため、子供三人を母にあづけ、妻は姉らとともに看病に専念した。このため、妻は勤務していたガソリンスタンドを退職した。入院中、原告は、下の用も自分で思うようにできず、オムツをする必要があつた。

退院後の昭和四四年七月一日から原告は出勤したが、机の前に坐るのがやつとで十分な仕事もできず、同僚らからも白眼視され昇進の途も断たれてしまつた。

これらの原告の精神的苦痛に対する慰藉料としては金一〇〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用 金二五万円

原告は、本件訴訟委任につき弁護士費用として、着手金七万円を支払い、かつ、成功報酬謝金として金一八万円の支払を約した。

五  よつて、被告らに対し、連帯して、以上合計金三、〇二四、一〇一円および内金二、八四四、一〇一円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年七月一一日から、内金一八〇、〇〇〇円に対する判決言渡日の翌日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの答弁、抗弁)

一  請求原因一の事実は認める。同二の事実は不知。同三の(一)、(二)の事実は認める。同四の(一)の(1)の事実のうち原告の生年月日および事故当時の勤務関係は認めるが、その余の事実は否認する。同四の(一)の(2)の事実および四の(二)の事実はいずれも否認する。同四の(三)の事実のうち、原告の妻が子供三人を預けて看病に専念したこと、当時原告の妻がガソリンスタンドに勤務していたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

二  過失相殺

原告は、道路を横断するに際し、左右の安全を確認したうえで横断を開始すべき注意義務があるのに、これを怠り、飲酒のうえ、被告が停車してくれるものと軽視して横断歩道から六・八メートル離れたところを横断した過失がある。

(抗弁に対する原告の答弁)

原告が飲酒していたことおよび横断歩道外を横断していたことは認めるが、過失があつたとの主張は争う。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  請求原因一の事実(本件事故の発生)および同三の(一)・(二)の事実(被告らの責任)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕を総合すると、請求原因二の事実(原告の傷害の部位・程度)を認めることができ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

三  そこで、原告の受けた損害額について判断する。

(一)  逸失利益に関する原告の主張は、必ずしも十分に裏付けされた事実に基くものとは云い難い(原告の主張によれば、本件事故後六年目に係長に昇任した二等級一三号俸を受けると仮定して計算しているが、〔証拠略〕によれば、原告はすでに昭和四六年六月から係長に昇任し二等級一一号俸を受けていること、また、原告の主張(別表(二)の(イ)欄)によれば、原告は、最高の等級号俸(別表(一)の一等級一七号俸)の支給を受けることになるが、そのような蓋然性を認めるべき十分な証拠はないことなど)から、原告の右主張を本件において採用することはできない。

(二)  〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故に基く傷害のため、意識不明のまま入院し、原告の妻は、三人の子供の養育を原告の母に委ね、かつ勤務先のガソリンスタンドを退職して、原告の看病に専念したこと、右入院の頭初は、原告は下の用も自分で思うようにできず、オムツを着用する必要があつたこと、原告には本件事故に基く傷害の後遺症が残り、その障害等級は、股関節の部位に関しては自賠法施行令別表の一〇級に、頭痛感等に関しては同一二級に相当し、これらを併合すると同九級に相当し、従つて、原告はかなりの程度の労働能力を喪失したといえること、原告は、昭和四四年七月から勤務に服しているが、右のような労働能力の減退等のため、従前と同程度の職務に従事することはできず、そのため昇任等も他の同僚、後輩等より遅れ、従つて、これらのことが給与、賞与、恩給等にも直接、間接に影響を及ぼすであろうことは推測に難くないこと、をそれぞれ認めることができ、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

右各事実並びに原告の傷害の程度等を斟酌すれば、本件事故に基く傷害のため原告が受けた精神的苦痛に対しては、金二〇〇万円をもつて慰藉されるのが相当である。

(三)  原告が、本件事故に基く傷害のため入院、通院した期間における付添費、交通費、その他の諸雑費の費用としては金一〇万円を相当としてこれを認定する。

四  過失相殺

〔証拠略〕を総合すると、原告は、飲酒のうえ、左右の安全を確認することなく、本件事故現場の道路の横断を開始したものであることが認められ、この点原告には、本件事故の発生につき過失があり、諸般の事情を斟酌して、右過失の割合を三割と認定する。

よつて、前項(二)、(三)の損害合計額二一〇万円につき右割合をもつて過失相殺すると、残金は一四七万円である。

五  原告が、自賠保険から後遺症の補償として金四五万円の支払を受けたことは原告の自認するところである(なお、自賠保険から雑費として支払を受けたと自認する金四五〇円については、少額であるから計算上これを切捨てる。)から、前項の損害残金一四七万円から右金額を控除すると、残金は一〇二万円である。

六  原告本人の供述によれば、原告は、本件訴訟委任のため、原告代理人に対し、弁護士費用として、着手金七万円を支払い、また、成功謝金一八万円の支払を約したことが認められるところ、前記認定の事実によれば、弁護士費用としては合計金一五万円(着手金七万円、成功謝金八万円)の範囲においてこれを相当として認定すべきである。

七  よつて、原告の本訴請求は、被告らに対し、連帯して、以上合計金一一七万円および内金一〇九万円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年七月一一日から、内金八万円(未払の弁護士謝金)に対する本件判決言渡の日の翌日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武内大佳)

別表(一) 給料表

<省略>

別表(二)

<省略>

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